ねずみ構に見る現実社会の縮図
ねずみ構の原理をご存じだろうか。
Aさんがお金を振り込み、BさんCさんDさんを紹介すると3人分のキャッシュバックが入り、振り込んだ以上に儲かる。BさんがEさんFさんGさんを紹介すると、同じようにBさんにキャッシュバックが入る。
そして、急成長するが100%破綻するビジネス。

なぜ破綻するのか?答えは簡単、市場は無限ではなく有限だからである。
1人が3人を紹介し、3人が9人を紹介すると500人目の頃にどうなるかは小学生の計算、これを言うと「何を当たり前のことを」という人がいるが、ねずみ構に限らず、あらゆるビジネスに当然のごとく顕在する言葉。

市場は有限である、と。

「消費しない巨大市場」の形成
現在日本の人口は1億2700万人、これは平成16-18年をピークに減少を迎えると言われている。
実際のところ医療の発展と共に長寿化もあり、人口の総数はさほど大きくは変わらないかと思われるが、少子化と結婚しなくても困らない社会環境により、老年人口が増えて「消費しない巨大市場」が形成される。

収入に限りある個人から多くの出費を頂くことが難しいように、ビジネスの上で重要なのは消費人口であり、母体となる総人口ではない。
結果、幼年層や老年層を除いた実消費人口は数千万人、この状況がさらに収縮するのは明らか。
最大手になった時点で、それを維持するため破綻の足音が聞こえる可能性が極めて高いのである。

ITゴールドラッシュの終焉〜需要と供給バランスの崩落〜
結論から言うと、もうインターネットで儲ける時代は終わる。
ITビジネスに新規参入を行ってブレイクすることはもう無いと思った方がよい。

誤解なきよう注釈するが、誰もが気軽に参入して群雄割拠する時代は終わったという話。
今後のIT業態は明確に儲かるところと儲からないところが二極化する、ということを述べている。
ゴールドラッシュは去り、一般の商売と何ら変わらない、限られたパイを奪い合う苦労と実力が問われる時代に突入する。

インターネットの実市場は1200-1500万人前後と思われる。
某社の顧客リスト流出により公称600万人、実数450万人と言われていた登録数が、さらに退会者等も含んでおり、実数250-300万人前後であったことがわかる。
弊社はネットワーク管理も行っている関係上、国内のプロバイダ接続数を検証した結果、全体の20-25%は最大手でもある上記接続ユーザーであったことからの推測に尽きる。

にわかに大手接続業者の買収などで実数の底入れをしている状況を鑑みると、新規獲得が困難に陥り、結果トータルのマーケットは2000万に届かず天井を示していることがわかる。
誰もがPCを自在に操り、当たり前のようにインターネットを繋げる訳ではないのだ。

公称市場が3000万だ5000万だと言っても、これは携帯の利用者を含んでいる。
携帯ユーザーの多くはメールの利用者であり、サイトをフルに活用している利用は極一部のキラーコンテンツのみ。携帯も既に利用者が飽和し、新規参入は極めて厳しい。
メールの利用一つ取っても、パケット定額時代に突入すれば売り上げの上限は既に決まったも同然。

公式サイトは当然のことながら、「出会い、着メロ、待ち受け」収益の取れたこの御三家も多くのサイトが目に見えた価格競争の激化に即して実情は死に体の様相を呈しており、アニメやゲームなど既に各メディアで知名度の高いキャラクターを保有している僅か一握りの企業だけがなんとか元を取ったという現実、これも個人による著作権無視の不正利用防止のため、やむを得ず独自提供を始めた結果、事業規模を考えると全く割に合わなかった、と本音をこぼすところすらある。

今後の企業テーマ-進化論に代えて。
インターネットの市場分析から、利用者の中で情報収集だけをする、サービスを利用する、商品を購入する、色々とニーズが分かれるところだが、分母が飽和状態になると自ずと規模の限界値が見えてくる。

弊社提供サービスの総登録者数は退会者などを除いた実数で数十万名、来訪・利用者数は月間1億PV前後だが、先の市場から想定すると僅かなスタッフで国内インターネット市場の数%をリアルで保有している次第だ。

例えばある企業の社員が100人いて顧客1万名の管理運営だと満足に維持も出来ないが、1-2人のスタッフで顧客1万名を抱えていれば十二分に成立する。
加えてスタッフ一人一人が徹底した超ローコスト意識を持つことで、収益のバランスシートも良好になる。
1円のコストを削れば1円の利益が出る。

この1-2年の間に多くの同業他社が大手に買収され時には閉鎖していったが、これでは業界全体がサービスの個性化・差別化が図れない。パワーゲームは何も生み出さないのだ。
無謀なシェア30%よりも確実なシェア1%を狙った方が、手にする利益率は高いことが多い。
いつからかマネーゲームの権化になっているようだが、本来のITというのは、そういうもののはずだ。

ダーウィンは言う、「生き残る種は強い種ではなく、変化に対応できる種だ」と。
大手を目指すことの否定、恐竜を目指すよりも哺乳類を目指す方が、より激変する環境に適応し、生きながらえるということである。

ただし、これはあくまでも早期に手がけ、永続する実績があって初めて形成される数字であり、今から新規で同様のサービスを展開しても同じ数を取ることは出来ない。数億に上る広告費をかけるならば別だが、カネをドブに捨てる結果に終わる。市場形成の頃には資金も底を付き、ハゲタカに食われるだけだ。

最も効率の良い手法としては、みんなが古いダサいと見向きもしなくなって捨てられたものを拾って手直し、収益にするのが得策。なぜなら見向きもしなくなった業態は、競争が無いからだ。
あとは自社サービスに対する収益バランスを改善し、他では手に入らない・競争が全く無いという独自市場を構築することが重要であり、これが今後、当社のITビジネスにおけるテーマとなる。

兵は中軍、半ばを渡らずば討つべし
ネコも杓子も飛びついている市場は競争が激しい。
その先鋒に勢い突っ込んだところで、大ケガをするのは目に見えている。しばらく傍観することも必要だ。

ニーズだウォンツだと能書きを謳ったところで、既に供給過多に陥っている業態に無理を押して突っ込むのはまさに根性論である。沼地に釣り糸を垂らしてマグロを釣り上げるのが不可能なことのように。

弊社はIT事業以外の柱も既に確保し、リアルなビジネスも行っている。
やるかやらぬかは別として、先に記した老年人口に即した消費ニーズの掘り起こしを考えれば、例えば老人用の紙おむつビジネスなどは非常に有望なマーケットであろう。

これも今のうちに書いておく。
これからIT事業を手がけようと思っている企業はハッキリ言って辞めた方がいい。実市場を厳密に調査していないのならば、確実に負ける。
来訪者が無償サービスに登録する確率、有償サービスを利用する比率、さらに継続率や行動推移をあらゆるサイトのコンサルティングを通じて得た実戦データがあるからこそ言える。

弊社のコンサルティング業務において「なんとか売り上げを増やしたいので教えてくれ」「この商売は儲かると聞いたので協力して欲しい」という話が来るが、初めて作ったホームページには誰も来ない。
結果、販売促進を行うために数千万〜数億という相応の原資を持っているかと聞けば「いや、カネは無いけど(同業他社を指し)あそこは上手く行っているので何とか出来るはず」と言う。

参入時期や市場サイズも考えずに隣の芝生の青さだけを見るのは、無茶な話だ。低コストで成功を収めるためには、誰もがやっていない時期に心血注いで特化しないと無理。
ネタや笑い話に聞こえるかもしれないが、実際にそういう話を持ち込む方が何人も来られる。まずは現実を直視することが重要だ。

ビジネスは常に投資効率、利回りで考える。
ITに限らず、1つのビジネスに100万投資して1年で1000万稼げるのか、1億稼げるのか、100万しか稼げないのか。はたまた1000万の赤字を抱えるのか。
圧倒的知名度を目指して派手に1億投資して5億の借金抱えるよりも、地味で目立たなくとも100万投資して毎月50万の利益をもたらすサービスを10個持った方が堅実、ということだ。

社会のため役立とうというのは大いなる目標であり、それを実現するために先立つモノカネを目先で稼げないようでは、単なる理想論。
「儲けるシステム」と「儲かるシステム」は違う。
この差を理解しないと、見た目だけは非常に派手で内情借金まみれ、ということが往々にしてある。

ビジネスはギャンブルではない。
イチかバチかの賭けで業態破壊、価格破壊に挑み、周囲に迷惑という名のクソを巻き散らして勝手に自滅してゆくパターンは、もう腐るほど見てきた。

イメージのないまま漠然と規模拡大に走り、それを維持するための金儲けをせざるを得なくなると、人の思いを踏みにじったり騙したり、犯罪にも平気で手を染める。
犯罪まで行かなくても、社長の仕事は社員を食わせるために頑張ることなどという矛盾を招くことになり、時には恨みも買いながら「おれ何やってるんだろう」と本末転倒な日々を送る羽目になる。

このあたりの話は常に企業論として書いてきたことだが、ITという幻想が持つ真実の歴史を一端として、改めて記しておきたい。